改正の趣旨
建設業における死亡災害は墜落・転落災害が最も多く、今なお年間100人程度が死亡している状況にあり、実効性のある災害防止対策を講ずることが急務となっています。
このため、厚生労働省において「建設業における墜落・転落防止対策の充実強化に関する実務者会合報告書」(令和4年10月28日公表)を踏まえ、足場からの墜落・転落災害を防止するために、事業者が講ずべき措置等について、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)の改正が行われました。
建設業における死亡災害に関する補足
建設業は全産業における死亡災害の約3割を占め、また、建設業における死亡災害のうち約4割が墜落・転落災害である。
改正事項
次の①から③。
① | 一側足場の使用範囲が明確化されます。 根拠条文:労働安全衛生規則第561条の2(新設) 施行日:令和6年4月1日 |
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② | 足場の点検時には点検者の指名が義務付けられます 根拠条文:労働安全衛生規則第567条、第568条、第655条を一部改正) 施行日:令和5年10月1日 |
③ | 足場の組立て等の後の点検者の氏名の記録・保存が義務付けられます 根拠条文:労働安全衛生規則第567条、第655条を一部改正 施行日:令和5年10月1日 |
以下、①~③の項目ごとに概要などを記載します。
「①一側足場の使用範囲が明確化されます」の概要
令和6年4月1日以降、「幅が1メートル以上の箇所において足場を使用するときは、本足場を使用しなければならない。」とされます。
ただし、つり足場を使用するとき、又は障害物の存在その他の足場を使用する場所の状況により本足場を使用することが困難なときは、一側足場を使用することができます。
「幅が1メートル以上の箇所」とは
足場を設ける床面において、当該足場を使用する建築物等の外面を起点としたはり間方向の水平距離が1メートル以上ある箇所をいいます。
足場設置のため確保した幅が1メートル以上の箇所について、その一部が公道にかかる場合、使用許可が得られない場合、その他当該箇所が注文者、施工業者等、工事関係者の管理の範囲外である場合等にあっては、「幅が1メートル以上の箇所」に含まれません。
なお、事業者は、足場の使用に当たっては、可能な限り「幅が 1 メートル以上の箇所」を確保すべきものであること。
「障害物の存在その他の足場を使用する場所の状況により本足場を使用することが困難なとき」とは
次のA~Dを指します。
A.足場を設ける箇所の全部又は一部に撤去が困難な障害物があり、建地を2本設置することが困難なとき。
B.建築物等の外面の形状が複雑で、1メートル未満ごとに隅角部を設ける必要があるとき。
C.屋根等に足場を設けるとき等、足場を設ける床面に著しい傾斜、凹凸等があり、建地を2本設置することが困難なとき。
D.本足場を使用することにより建築物等と足場の作業床との間隔が広くなり、墜落・転落災害のリスクが高まるとき。
留意事項
- 足場を設ける箇所の一部に撤去が困難な障害物があるとき等において、建地の一部を1本とする場合にあっては、足場の動揺や倒壊等を防止するのに十分な強度を有する構造とすること。
- 足場の使用に当たっては建築物等と足場の作業床との間隔が 30 センチメートル以内とすることが望ましいこと。
「②足場の点検時には点検者の指名が義務付けられます」の概要
令和5年10月1日以降、事業者は、足場(つり足場を含む。)の点検を行う際、点検者を指名しなければならないことを規定したこと。
指名の方法
点検者の指名の方法は、書面で伝達する方法のほか、朝礼等に際し口頭で伝達する方法、メール、電話等で伝達する方法、あらかじめ点検者の指名順を決めてその順番を伝達する方法等が含まれること。なお、点検者の指名は、点検者自らが点検者であるという認識を持ち、責任を持って点検ができる方法で行うこと。
足場の点検者について
労働安全衛生法上、資格については明記されていませんが、足場に関し知識がある者が点検してください。
また、厚生労働省では「足場からの墜落・転落防止総合対策推進要綱」において、一定の要件を示しています。
参考:「足場からの墜落・転落防止総合対策推進要綱」において示す点検者
「足場等の組立て・変更時等の点検者については、次の①~④に示すを者等、十分な知識・経験を有する者から指名すること。」としています。
①足場の組立て等作業主任者であって、足場の組立て等作業主任者能力向上教育を受講している者
②労働安全コンサルタント(試験の区分が土木又は建築である者)等の労働安全衛生法第 88 条に基づく足場の設置等の届出に係る「計画作成参画者」に必要な資格を有する者
③全国仮設安全事業協同組合が行う「仮設安全監理者資格取得講習」
④建設業労働災害防止協会が行う「施工管理者等のための足場点検実務研修」
「③足場の組立て等の後の点検者の氏名の記録・保存が義務付けられます」の概要
事業者又は注文者が行う足場の組立て、一部解体又は一部変更の後の点検後に②で指名した点検者の氏名を記録及び保存しなければなりません。
足場の点検チェックリスト
足場の点検後の記録及び保存に当たっては、推進要綱別添に示す「足場等の種類別点検チェックリスト」を活用することが望ましいこと。
参考:「足場の組立て後等安全点検表(ダウンロードデータ付き)」(建設業労働災害防止協会発行)
足場の点検とは
点検が必要な時期
根拠条文は全て「労働安全衛生規則」に掲載されている条文を指す。
点検が必要な時期 | 対象者 | 根拠条文 |
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足場(つり足場を除く。)における作業を行なうときは、その日の作業を開始する前 | 事業者 | 第567条第1項 |
強風、大雨、大雪等の悪天候若しくは中震以上の地震又は足場の組立て、一部解体若しくは変更の後において、足場における作業を行なうときは、その日の作業を開始する前 | 事業者 | 第567条第2項 |
つり足場における作業を行なうときは、その日の作業を開始する前 | 事業者 | 第568条 |
強風、大雨、大雪等の悪天候若しくは中震以上の地震又は足場の組立て、一部解体若しくは変更の後において、請負人の労働者が足場における作業を開始する前 | 注文者 | 第655条 |
点検の後
- 点検の結果、異常を認めたときは直ちに補修する。
- 足場を使用する作業を行なう仕事が終了するまでの間、「点検結果」及び「点検者の氏名」を記録・保存する。
また、補修等の措置を講じた場合は、当該措置の内容も記録、保存する。
※「足場を使用する作業を行なう仕事が終了するまでの間」とは、それぞれの事業者が請け負った仕事を終了するまでの間であって、元方事業者にあっては、当該事業場におけるすべての工事が終了するまでの間をいうものであること。(平成21年3月11日付け基発第0311001号)
参考
令和5年3月14日厚生労働省令第22号 労働安全衛生規則の一部を改正する省令(新旧対照表)